役に立たない建築ガイドブック

スペインの学会のついでに、某陶器メーカー出版の「ヨーロッパ建築案内」という本の「マドリード」のページに載っている近現代建築を全部歩き潰して来ました。それでわかったのは、建築ジャーナリストという人種は、建築家以上にJERKであるということです。「案内」と言いながら、行き方も、開館時間も、そもそも見学可能かどうかすら書いていない。物件名称も、全く違う意味の英語で書いてあったりします。たとえば・・・

  ガイドブック記載名 Madrid Sports Complex (マドリード・スポーツ・コンプレックス)
  スペイン語公式名称 Estadio Olimpico(オリンピック・スタジアム)
  現地通用名 La Peineta (地元の人にはこう言わないと通じませんし検索も出てきません。ちなみにLa Peinetaとは、「櫛」のこと。確かに巨大な櫛のような形をしています。)

『他の情報とリンクできるよう英文名を使った』とありますが、他の情報って何ですか?地元の一般の人達が使っている名称と対応していなければ、現地では探せませんよー!どうもこの著者は建築雑誌のファンタジーの世界だけで生きているようだな・・・

住所と写真を見せながらあちこちで聞いて歩いて、なんとか所在地はつきとめたものの、本書に掲載されていた8物件のうち、見学が可能だったのは、4物件のみ。リカルド・ボフィールの会議場(Palacio Municipal de Congresos)は今回の会場だったので入れましたが、毎日入り口で参加証&身分証明書チェックされたところを見ると、おそらく一般見学は難しいでしょう。

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サンタンデール銀行(Banco de Santander)は、営業時間内を狙って出かけましたが、行ってみたら、銀行の支店ではなく本社だったので、敷地内の入る前に警備員からストップ!粘り強い交渉と警備員さんの温情で、セキュリティゲートの直前まで連れて行っていただき、警備員さんの監視の下、内部のロトンダだけは肉眼で眺めさせてもらうことができました。このごく普通な建物の中に、ハンス・ホラインが改築した綺麗な現代建築空間が広がっていました。

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次の目的地、ジョンソン&バーギーの「ヨーロッパ門(Puerta de Europa)に関する説明には、『最上階。高さ115階で15度傾斜している。先端の窓辺に行ってごらんあれ。』とあります。ほお~、『ごらんあれ』とまで言うからには今度は内部見学できるんやろな~と行ってみましたが、「オフィスビルなので関係者以外立ち入り禁止です。」と受付でアッサリ追い返されました。どういうつもりで「ごらんあれ」と書かれたのか、一度お話をうかがってみたい。

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前述のスタジアムに関しては、『観覧席はすこぶる好体験を約束してくれる』とありましたので、サッカーでも野球でも辛抱して観戦する覚悟で遠路はるばる出かけましたが、試合どころか、まだ工事中。ガイドブックには「1994年竣工」と書いてありましたが、「竣工」って普通、完成時に言わない?

工事現場のフェンスの周りをウロウロしましたが、結局一番良く見えるのは地下鉄駅出口あたりからです。車でH40という道を走ればもう少しいろいろな角度から見えそうですが、徒歩では観覧席裏と横が限界。お巡りさんは「遠い国から来た大学の先生らしいし、入れてあげたら?」と言ってくださったようですがガードマンが「こういう見学者が増えると困るからダメ!」と言っているらしいことだけはわかりました。

12倍ズームのカメラを持っていたことが、せめてもの救い・・・

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このガイドブック、元・建築雑誌編集者の書いた本と聞けば、納得もできます。カッコいい写真を見せることにしか脳が無い人達ですからね。しかし京都の庭園ガイド等でも、非公開なら非公開、要予約なら要予約くらいは書くものです。

つまり、この「建築ガイド」は、案内する気などは最初から無い、「俺は編集者だから特別に中に入れたよ」というご自慢ですか?「おマエら読者はどうせ行けへんのやろ、本を眺めて妄想するだけやろ」とタカをくくっておいでですか?そら、エライ先生方ならば予めアレンジされたツアーでガイド付きで行けるかもしれませんが、学生や若い実務家等は皆、地図を片手に一人で建築巡りをしてるってこと、まさかご存じない?(私は年寄りですが、経済力と精神年齢は若者ですから!)

建築は、写真を見るだけでは何もわからない、実際に中に入って空間を体験してナンボなのです。ついでに言えば、住宅は住んでナンボ・・・しかしこの重要性が住宅雑誌の編集者にはわからない。もしも学会か何かでこの著者の方にお目にかかる機会があったら、「素敵な絵本をありがとうございました」「おかげさまでスペイン語の勉強になりました」と、嫌味のひとつも言ってやろうと決意しています。