国産木材と伝統木構造の危機

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法改悪、コストダウン要請、工期短縮要請、技術者の減少、そして何より消費者の良識と美意識の墜落により、日本が世界に誇る伝統建築は絶滅の危機にあります。私がご案内している外国の建築関係有識者の誰もが、例外なく溜息をついて感動する建築が、現在の日本の建築基準法の下ではほとんど禁止状態なのです。

阪神大震災能登半島地震の後の誤報道などを見てもわかるように、日本の有識者(学者)やマスコミの見識が低いことも一般の人々の間に誤解を広めているようです。もう一度皆さんと一緒に復唱したいと思います。せーの、「奈良時代~戦前の伝統木造建築は地震で倒れていませ~ん♪

おりしも先頃NHKのクローズアップ現代で日本の林業についての特集をやっていました。この問題が取り上られるだけでも有難いのですが、若干加筆訂正したい点がありました。

まず、国産材の値が安くなっている現状についての「十分に胸を張れる品質なのですが」とのコメント。そんな弱腰な言い方はやめてくださ~い!!!安い代替品だったのは外材のほうです。

国産材は、日本の湿潤な気候やその結果としての白蟻被害などに対し、外材よりはるかに強いのです。国産材には日本の害虫に対応するような防腐・防虫成分が含まれているからです。国産のヒノキ、ヒバ、マツに勝る構造材なし、というのは常識ではなかったのですか?また、スギは弱いと思われがちですが、目の詰まった優秀な構造材の産地も国内にはたくさんあります。

米ツガや米ヒなどは「建売向け」の代替品だったはず。樹種も特定できないホワイトウッド」(何者じゃ~)など論外です。私はこの番組を見るまで、ホワイトウッド(輸入針葉樹材一般)、はコストダウンのための妥協品、もしくは木質が柔らかくて素人でも扱いやすいDIY用木材、と理解していたくらいです。

白身より赤身(心材)のほうが構造材や外装材としては遥に高級であることも、木材界の常識。赤身を正しく扱うには大工さんの知識と技術が必要なので、ラク白身のほうが好まれる傾向が、いつの間にか誤解に・・・。ではなぜ「安物」のはずの外材のほうが高級品扱いになってしまったのか、番組の説明を要約すると、

・外材のほうが大量を安定供給できる→建築市場の要求に迅速に対応できる
・外材のほうが乾燥してから出荷されるので、施工後の曲がりや狂いが少ない→プレカット工法向き

ということらしいのです。でも、住宅を工場生産しようなんて発想じたいがおかしいんじゃないの・・・?

番組では言ってくれませんでしたが、昔の日本の林業では、伐採後の木材を自然乾燥していました。窯でスピード乾燥した木材よりも、天日でじっくり自然乾燥した木材のほうが長持ちすることも、常識。ところが、建築市場の変化にともない、呑気に自然乾燥などしている暇がなくなり、大型の乾燥設備を持つ海外の製材業者に負けてしまったというわけなのですね。

いくら設備投資できない小規模林業だからといって、未乾燥材を出荷した日本の業者も悪いですけど・・・でもこれは、自治体が共同乾燥所を設置するなど、政策ひとつでいくらでも解決できる問題です。国産材自体の生体構造や含有成分は、設備投資でもどうにもならない、自然の財産なのですよ!!!

もうひとつ気に入らなかったコメント。「昔は建物に狂いが出たら大工さんがすぐ直しに来てくれたから大丈夫でした」。これも誤解を招きます。本当に腕の良い大工さんは、木材の経年変化も計算に入れて、狂いにくいように建てていたのです。

たとえば梁や敷居など下向きに荷重のかかる部分には、あえて上向きに反りやすい木材を用いたり、いわばPre-stressed Concreteのような技術を、昔から経験的に知ってやってくれていたのです!北向きの森で育った木材は日の当たらない湿度の高い場所に用いたり、アテを上手く利用したり・・・。キズと言ってしまえばそれまでの節なども見事にデザインとして利用するセンスは、驚くばかりです。そんな日本の大工さんの高度な技術を使えなくしてしまったのは、市場(施主の要求)と法律なのです。

大学などの「専門の研究機関」などの話も、100%は信用しないでください。

私が西岡棟梁の話に憧れ、そんな勉強ができると期待して木材関係の学科に入学した1980年代、そこで行われていたのは、集成材を作るための強力接着剤の開発やプリント合板印刷技術の研究でした。当時はまだ、自然派住宅や伝統木構造、古民家再生など誰にも見向きもされていなかった時代だから。大学だって卒業生を就職させなければならないし、産業に貢献して研究費も取って来なければならない。わかっていても、少数派の人々の味方をして「価値あるものを残そう」なんて暇はなかったのです。大学の産業化で、今後はますます、お金にならないことには取り組みにくくなっていくでしょう。

法律や政策を作る方達だって、熟練した大工の親方や一部の良識ある個人建築家の意見よりは、お金を持っている大手ゼネコンやハウスメーカーの声に耳を傾けたくなるのは当然の流れかもしれません。

でも本当の答えは、30年後、50年後にかならず出ます。今、市場(施主)の意識改革が必要なのです!


追記

日本で言うホワイトウッドというのは通常はヨーロッパ・トウヒ(Picea Abies)のことだそうです。
英語のWhitewoodは一般名称なので混乱していました。
日本のレッドウッドと英語のRedwoodも全然違う木でした。