ドンブリ見積りの理由

小さな施工会社に勤めていたときの話・・・
ちゃんと建設業登録もしている株式会社でした。

ある個人邸の庭園リフォームで「見積もりどうしときましょうか~?」と社長に相談したところ、
「せやな~、いちおう500万くらい放りこんどこかぁ~。
もし『高い』言われたら、気持ちよぅ値下げしといてや~♪」
・・・と、まあこんな感じでした。

面積は目分量、何を何㎡作るといった数量関係も曖昧なままで。

この社長はこの道ウン十年の大ベテランですが、
「○○の㎡単価はいくらにときますか」といった質問をするとほとんど即答できないという状況。
つまり、今までずっとこのドンブリ勘定で商売してきたということです。

実際に「いくらかかるか」ということよりも、
「今、会社はいくらの金を必要としているか」
「この客ならいくらくらい出せそうか」ということを判断基準に見積りを出せるのが、
ベテラン経営者というものなのです(?)

設計出身で未熟者の私は、鉄筋の長さや釘の本数まで細かく拾ってきた癖が抜けず、
しかたなしに「建設物価」と大手ハウスメーカーの請負価格表を参考にしながら、
レンガ敷○○㎡(材料/人工)、樹木(種類・サイズ)○○本・・・と細かい内訳を書いていきました。
社長が「500万」と言ったので、合計額がそれに近くなるように設計を考えて。

ところがこの見積もりはお施主様から却下されました。
見積もりの中のあるアイテムの価格が、他社で聞いた話よりも高かったから、という理由で。
大口客を逃した私は「余計なこと書きよってからにこのドアホ!」と社長にどやしつけられました。
内訳があると素人にも見積もりの比較がしやすいので、どうしても値下げ競争になってしまうのですね。

ドンブリ勘定のもうひとつの理由は、変更や見積り違いがあったときに調整がしやすいということです。

特にリフォーム工事だと思わぬ障害による追加工事などが生じやすいのですが、
その都度に請求書を追加すると機嫌を悪くするお施主様も多いことは事実です。

ですから、会社の評判を落とさないためにも、
「A様邸でいくら損した分はB様邸でこっそり取り返しておこう」といったことになります。
最近は現場が地元とは限らないので、A様とB様が知り合いであるという確率も低いのです。

一方で、「予算が10万円くらいで」と店舗アプローチの改装を頼んで来られたお客様には、
いちかばちか美しい完成予想スケッチ画と35万円の見積もりを提出してみたところ、
あっさりオーケーが出てしまったこともありました。
お客様もドンブリなんですね!

住宅リフォームで業界でも、坪単価いくらの「まるごと改装パック」が好評を博しているようです。
「細かい見積りを聞いてもわからないし、とにかく総予算を明らかにして!」
という施主側の要望に応えているものと思われます。
「カタログから商品を選んで注文」というわかりやすさも受けているのでしょう。

ドンブリ勘定蔓延の責任は業者と施主の両方にあり、といったところでしょうか。