「みんなのいえ」(デザイナー住宅を考える)

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何年か前の映画ですが、三谷幸喜脚本・監督の「みんなのいえ」は、
これから家を建てる方には超お勧めです。
http://www.eiga-portal.com/movie/minnanoie/01.shtml

新進インテリアデザイナー唐沢寿明)と、施主夫人の父親である昔堅気の大工の棟梁(田中邦衛)との現場での対立をコミカルに描いた娯楽モノですが、家づくりについては真面目に描かれています。

繰り返し聞かれる邦衛さん(棟梁)の「'''いいよなー、頑丈そうで'''」という言葉は、
家作りの原点を語っているように思います。

ずっと気の弱かった主人公(施主:三谷自身がモデルらしい)が、
投げやりになりかけたデザイナーに「仕事なら納期守れよ!」と叫ぶシーンも特に心に残っています。

外国製の高級アンティーク家具を修理することになったとき
「元通りに直せますか?」と心配するデザイナーに、
「同じようにしなきゃダメかい?こんな雑な仕事はしたことねぇなぁ」
というベテラン大工さんの心意気も素敵です。

玄関ドアを作る場面での対立で、どうして
 
 デザイナー:「アメリカ風の内開き」
 棟梁:「断固として外開き」

となったのかについての説明がなかったので、老婆心ながら・・・

内開きのドアは、
 
 ・玄関先に不審者が立ったとき、女性や子供の力でも両手で押せばすぐに閉められる
 ・構造上、雨の水などが侵入しやすい
 ・開けたときに家の内側の場所をとるので、脱いだ靴であふれている玄関には無理

という特徴があり、外開きはその逆になります。
どうしてアメリカには内開き、日本には外開きが定着しているのか、ちょっと考えればわかりますよね。

でも映画の中では「ここは父親(棟梁)の顔を立てて外開き」みたいな結論になってたように思います。

デザイナーのセリフに出てくる「シンドラー」というのはたぶん、
先駆的な住宅設計に名を馳せたアメリカの建築家の名前ルドルフ・シンドラーのことだと思います。

日本で言えばさしずめ吉村順三先生といったところでしょうか。

シンドラーの作品は、フランク・ロイド・ライトなどの奇抜な住宅に比べると一見地味なので、
日本ではあまり注目されていないようです。

ライトではなくシンドラーの名を言わせたあたり、
アメリカ帰りのデザイナーなんだということを示唆する憎い脚本です。

しかしデザイナーが「インチ」単位の設計を主張するくだりには、
同じアメリカ帰りとして首を傾げました。

日本でインチを使っている設計者なんて、本当にいるんでしょうか?
(ピザ屋じゃあるまいし・・・)

大変だろうと思いますよ、インチ体系の製図用具なんて日本では滅多に売ってないし。
(オークションで高く売れるかな?)

ホームセンターでツー・バイ・フォー材買ってきて全部自作するつもりならインチで考えたらいいですが、
大工さんに頼んだらそりぁ怒られますよ。

設計者が使うセンチメートルやミリメートルですら、大工さんには通じにくいことありますからね。
(みなさん今でも寸と尺で喋ってますもんね。建材の大きさがそうなってるんです)。

それにフィート・インチ体系は厳密にはメートル法に換算できないものなので、
翻訳しようとしたら超タイヘン。おまけに図面のスケール(縮尺)の取り方も全然違います。
(日本風の倍率でいうと、1:16とか1:48になるんです。やれるもんならやってみろってんだ!)

始めからアタマ切り替えて設計しなおしたほうが合理的です。
(私なんかいまだに「エーカー」の悪夢にうなされてますよ)。

本題に戻りますが、シンドラーにしても吉村先生にしても、「外見をお洒落にしよう」とか
「かわったことをしよう」とかいうことを目標とした「デザイナー」ではありません。

彼らは使い心地や住み心地を追求した「建築家」であり、その結果がたまたま、
それまでにない家であったり、お洒落に感じる仕上がりになったりしただけなのだと思います。

もちろん、建築施工技術を知り尽くした上での、無理のないデザインです。

今でも、そういった流れを汲む優秀な、そして施主思いの建築家はちゃんといますから、
これから家を建てる方は、よく探されたらいいと思います。

映画では、建築法規も知らず住宅設計は初めてというインテリアデザイナー
いきなり家一棟の設計をまるごと依頼するという設定になっています。

「施主夫人が彼の設計した店舗に惚れこんで」という設定でしたので、
それはそれで自己責任の世界だと思いますが、度胸のあるお施主さんが増えたものです。

インテリア・デザインならまだ建築に近いかもしれませんが、
グラフィック・デザイナーに家の設計を頼んでいる話がテレビで紹介されていたこともあって、
あれにはさすがに仰天しました。
(そういう場合は、設計料を支払うのではなく、授業料を徴収したらいいと思います)

この唐沢扮するデザイナーのような仕事熱心で真面目なタイプなら、
現場の職人さん達の話に耳を傾け、勉強しながら成長してくれる、ということもあるでしょう。

映画も、結局はそういった形でハッピーエンドとなりました。
(ベテラン棟梁もついてたし、ね)。

でももしデザイナーが知識不足や間違いを認めない見栄っ張りだったり、
施主や職人の意見を聞かない頑固者だったりしたら要注意です。

「雑誌に載るような目立つ作品をつくって世に出よう」と鼻息を荒くしているようなタイプだったら、
これはもう赤信号と断言できます。

建築雑誌に載ってるような住宅の施主って、「独身男性の一人暮らし」が妙に多いんですよね。
・こんなスッキリした場所でどうやって料理をするのか?と思わせるモダンなキッチン
・年頃の家族がいたら絶対不可能なガラス張りの浴室・・・等々。

萩原博子さんの「職人を泣かせて建てた300年もつ家」を読むと、
「家づくりというのは本当はこんなに大変なプロジェクトで、人任せにしてはいけないんだよ」
ということがよくわかります。

さすがにご自身がテレビでも人気のファイナンシャルプランナーだけあって、
現実的な情報も満載され、とても役に立つ本です。

建築家・林昌二さんの「建築に失敗する法」(1980年彰国社)も、
デザインとは何か?という基本について鋭く考察された名著で、
ユーモアにあふれる易しい語り口は、家に興味のある方ならば誰でも気軽に楽しめると思います。

オフィスビルなど大物の設計で有名な林昌二さんですが、細かい部分の「使い勝手」について、
徹底的にこだわられています。

在庫僅少残りあと一冊とのことですので、興味のある方はお急ぎください。
http://www.junkudo.co.jp/detail2.jsp?ID=0180043805

私も2700x3600の壁面本棚にあふれかえるほど建築関係の本はあれこれ読みましたが、
専門書を除き、上記2冊は特に自信をもって皆さんにお勧めできる本です。