米国の学生寮建替えに思う

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いったいアメリカに何の調査に行ったのかと思われる方も多いかと思いますので、少々ご説明。カリフォルニアの某有名大学の家族持ち学生用の寮(大学村、約900世帯)の追跡調査だったのです。12年前に建て替え計画に反対していた物件なのですが、私の意に反して完璧に生まれ変わっていました。

このブログでおなじみの「スワップショップ」もなくなってしまっていました。中古品業者が勝手に仕入れ(?)に来るので管理しきれなくなったそうです。それよりも何よりも、スワップショップを必要とするような住人が減ったという現実もあります。見てください、この駐車場。学生寮BMWですよ!昔は、「15年落ち・走行マイル数不詳・ボディ凹みあり」のアメ車を500ドルで取引してたもんだが・・・

12年前の家賃は、古いアパート(第二次世界大戦中に建てられたバラック)が月300ドル、ちょっとマシな2LDKアパート(築40年)が月500ドルでした。当時、周辺地区のアパートの相場は月600~1200ドルくらいだった頃の話です。月300ドル地区はほとんど中国人家族で、英語の通じない爺婆(父母)がいっぱい、洗濯物がいっぱい。中には、超一流大学のポスドクなのに夜は中華料理店で皿洗いのバイトしてる人もいました。少なくとも当時、ここに住んでいた人々はみな家族を養っている学生でした。あの格安アパートがなければ暮らせない人達が沢山いたのです。

建て替えをしたら家賃が3倍になるのはわかっていたのです。だから皆、反対したのです。しかし、この写真の新アパートの家賃は月1400~1700ドル。さらに毎年数%ずつ値上がりするそうです。大学院生が週20時間助手のバイトをしても月給は1500~1800ドル位ですから、ほぼ全額家賃で消える。他に(配偶者等に)収入のない学生の場合は、銀行でローンを組んで生活しているようです。(それにしてもローンの好きな人達やのぅ・・・)

しかし、新しい住民は、誰も文句を言っていないのです。もはやここは、貧乏な学生が入学するためのaffordable housing(手頃な家賃の住宅)ではなく、「環境が良いから家賃は高くても敢えてここに住む」という、経済的余裕のある学生達のための寮になっていました。奨学金ももらえない、ローンも組めない、配偶者が働けない学生はどこへ行ってしまったのか・・・? それはわかりません。

しかしここで日本の大学関係者および国民の皆さんに注目していただきたいことがあります。これらのアメリカの州立大学のアパートは、完全独立採算制で、家賃収入だけが財源なのです。大学からも、ましてや国や州からの経済的援助も保護も全く受けていないということです。だから建て替えや修繕をしたらそこにかかる経費の分、家賃の値上げをせざるをえないのです。アメリカの大学では、学生の住居は個人の問題なので、このような「自己責任」が常識です。

一方、ほとんどの日本の国立大学法人では、交換留学生には最初の1年間、全員に格安の寮をご用意しています。風呂付・家具付・ネット付のワンルームが月1万円少々、家族用2LDKでも月2万円台~です。京都の場合、ここの不動産相場を知る方なら、これがいかに格安かおわかりですね。頑張って仕送りされている日本人学生の親御さんも、さぞかし仰天でしょうね。留学生だけでなく、お給料ウン十万円のポスドクさんや招聘学者でも抽選に当たれば入れます。中には「月20万円のマンションでもいいよ」とおっしゃっている教授クラスの方もいるのに・・・

国立大学法人では、在籍する留学生や外国人研究員向けのための日本語学校もほとんどの場合、無料です。米国では、留学準備生等のための語学学校は独立採算制で、無料なんて聞いたことありません。日本では、院試を控えた留学生(受験生)に国費でチューター(家庭教師)をつけてあげている例もあります。

でもこういったことに疑問を持っている教職員はあまりいません。あまりしつこく言うと「アンタ、外国人キライなの?」などと勘違いされてしまいますが、そうではありません。外国人のお客様扱いをやめ、留学生も地元の学生も対等に扱わないとご本人達のためにならないということ、こうした扱いが国内の学生に対して不平等であることを言っています。

優秀な学生はアメリカに行き、お金のない学生だけが日本に来る、などということになりませんように。