タンポポ (1985東宝)

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伊丹十三監督のタンポポ」(1985東宝)は、たぶん百回くらい繰り返して見ました。それでも一向に飽きないほど、コクのある、美味しい作品です。

まず、あの渡辺謙ですら「ただの若僧」に見えるほどのベテラン・豪華キャスト。あらすじを読むより見るほうが早いですが、基本となるラーメン屋修業の物語の中に、様々な、食に関する挿話が交錯します。

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店の商品を指で潰して歩くイタズラ老婆。嘉さんじゃありません・・・原泉さんです。フランス料理に戸惑う重役達を尻目に難しい料理を次々にオーダーする新入社員。西洋人に授業を掻き回されるマナー教師。死の床で最後の夕飯を作る妻・・・etc.挿話を繋ぐのは食通ヤクザ「白服の男」(役所広司)とその情婦(黒田福美)です。演技派揃いで、人物像に見ごたえがあります。

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伊丹作品は、そのコメディ・タッチが一見、三谷幸喜作品と混同されるかもしれませんが、中身はずっと深く現実的で、作りにも全く妥協や隙がありません。三谷映画が面白いマンガとするならば、伊丹映画は文学だったと思います。ある程度の映画知識・一般教養がないと楽しめない面もあるかもしれません。

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「教授」をロングランで演じてきた中村伸郎を「大学教授を名乗る詐欺師の熊田亀吉」に扮させたりする大人のユーモアは、「ラヂオの時間」で三谷が宮本信子にした無意味なおふざけとは次元が違います。俳優さん一人ひとりの芸歴を知り尽くし、そこに敬意をもって役に当てているから、はまり役も、意外な役も、面白いのです。脇役さんや劇団系の地味な俳優さん達も随所随所で光り輝いています。

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さて肝心の嘉さんですが、食通が度を超して宿無しになった元・産婦人科医。今は超グルメな乞食集団の「センセイ」で、主人公のラーメンスープ指南役を引受けます。自転車でフラフラと登場するご老体ながら、「荒野の5人組」といった男らしい役柄。セリフも出番もいつになく多く、大活躍です!それにしてもこのホームレス集団、食に関する知識も技能も超一流です・・・

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グルメ映画などと書かれることもありますが、そんなんじゃありません。人間と社会を描いたドラマです。美食というものに全く興味のない私がこれだけ楽しめているのだから、本当です。興業的にはもうひとつだったそうですが、VHS時代から英語字幕版も出版されており、海外では高く評価されていることがわかります。

追記:
2007年5月、愛媛県松山市伊丹十三記念館]オープン予定。中村好文設計。ああ、監督が亡くなってから10年になるんですね。