砂の器 (1974年松竹)

日本映画史に残る傑作と言われています。多くを語りませんので、まだの方は是非ご自分で見てください。松本清張推理小説を原作にしていますが、原作とは全く異なる視点の人間ドラマになっています。

圧巻は、ラスト30分間。

芸術のため、自らの過去を知る恩人を殺してしまった作曲家(加藤剛)の幼い日の回想シーンが、彼自身の弾くピアノ協奏曲「宿命」と共に流れます。ハンセン氏病のために故郷を追われ、迫害を受けながら巡礼の旅を続ける乞食の父子の父親役を演じているのが嘉さんです。

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日本海沿岸の美しい四季が胸に刺さります。小津・黒澤から宮崎駿まで、日本映画の人気の原点は自然の風景の描き方にあると私は思うのですが、いかがでしょうか?そして最後は、あのあまりにも有名な、「そんな人、知らねぇぇぇ!」のシーン。

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このシーンを見て滝の涙を流さなかった人を、私は今まで知りません。嘉さんはこの一言以外にはほとんどセリフもなく、回想シーンの映像にしか登場しないのですが、この映画で多くのファンの心を鷲づかみにし、演技者としての名声を不動のものとしました。昨年、丹波哲郎さんの訃報とともにこのシーンを目にした方もあるでしょう。丹波さんも大変気持ちの入った演技でした。

テレビ版(中居正広主演、2004TBS)では、いったい誰が嘉さんの代わりを?と心配しましたが、この部分は全く違うストーリーに変えられており、このセリフはありませんでした。ベテラン俳優の原田良雄さんでも、このシーンを演る自信はなかったことでしょう。ホッ。

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渥美清さんも脇役で出ています。寅さんの「三重弁」とはかなり愉快です。 その他の主な出演者は、緒方拳、笠智衆佐分利信森田健作島田陽子、子役の春田和秀君そして芥川也寸志さんの音楽です。

松本清張作品らしく、捜査上で全国各地を飛び回るのも楽しみのひとつです。1970年代の蒲田駅大阪駅通天閣周辺の他、秋田県岡山県、石川県~島根県の各地方も登場します。呑川や、あっ、「キャバレー金時」の看板・・・懐かしすぎる~! また旅をしたくなってきました。

野村芳太郎監督、橋本忍山田洋次脚本、1974年松竹・橋本プロダクション)