ディープな京都(3)借景問題

円○寺さんには年間を通じて何度もお邪魔していますが、あんなに混んでいるのは初めて見ました。

紅葉の季節(11月末)だったからなのでしょうか?
それとも、先ごろの京都市の景観保全建築規制の話題で新聞等に紹介されてしまったからでしょうか。

私と一緒の学生さん達は非常に礼儀正しく大人の振る舞いをしてくれましたが、
熟年観光客達が解説中にお喋りしたりカメラを動かしたりして、煩くてしょうがなかったです。

これこそ、ご住職がずっと恐れて避けてきたことではないのか、と少し心配になってしまいました。

「ガイド同伴お断り」の張り紙には「何故?」と思う方も多いかもしれませんが、
ただ「あ~ら、綺麗ねぇ」と感心して写真を撮ることしかしない団体客達の様子を見ていると、

「一人で来られないような人は来なくてもよろし!」と、私(ガイド)ですら思ってしまいます。

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円○寺は、京都に最後の二つと言われている、比叡山の借景をもつ禅寺の一つです。
(この写真は2005年の夏に撮影したものですが、静かにゆっくりできました。)

もともと、京都市内の庭はほとんどが借景を前提としていました。
石庭の有名な竜安寺だって本来あんな箱庭ではありませんでしたが、今はそれを考える人すら稀です。

「30年前には『環境』などと言っても見向きもされなかった」とおっしゃるご住職は、
ごく数年前まで、写真撮影も禁止、団体もお断りして、周辺の開発と孤独に戦ってこられました。

イメージ 2

上の美しい庭園の生垣と竹薮の向こうに広がっているのは、実はこんな風景なんです。
いつマンションが建ってもおかしくない、というところまで来ていました。

写真の向こうに小さく見える墓地は、檀家がないため本来は墓地を必要としない円○寺が、
開発を阻止するために自ら土地を購入して作ったものです。お墓なら壊されないだろうと・・・

数年前には市が周辺の開発許可を出し、「もうダメだ、最後に見てもらおう」ということで
写真撮影の禁止も解き、幾分観光客の受け入れも始めたところでした。

ところが今回の急展開(11月24日発表、京都市の建築規制強化)で、
京都市内の守るべき38の眺望」のひとつに名を連ねることになったのです。

先人の遺産を守ろうと孤高の戦いをしてきたご住職。
「やっと話を聞いてもらえた」と微笑みながらも、押し寄せる観光客には戸惑っているようでした。

多くの方に理解してもらわなければならないが、といって、あまり有名になるのも困る・・・
観光バスが入ってこれるような道路が開発されれば、周辺の大型建築化はいっきに加速するからです。

(現在はまだ、タクシーさんも嫌がるような急な細い坂道の上の辺鄙な場所です)。

これから、まだまだ難しい戦いが続きそうです。

イメージ 3こちらはもうひとつの比叡山借景、
西賀茂の正○寺です。

こちらもかなり辺鄙な場所にあり、
タクシーでも迷う方が多いです。

目印が何もない住宅地なので、
私も言葉ではよう説明しません。

「知っている運転手さんにあたりますよう」
と祈るしかありません。

昨年の夏に何度か行ったときには、
受付に誰もいないほど静かでしたが、

この静寂もいつまで守られるのやら・・・














しかし、都市はお寺や観光客のためだけにあるのではありません。

私達が新婚当初、京都市内のファミリー向けハイツやマンションはどこにも空室がなく、
予約を入れて順番待ち、内見も許されず、空くまでは別居婚、みたいな状況でした。

京都市内中心部にゆったりした庭付き一戸建てを持つことは、ほぼ不可能です。
駅から徒歩30分超のマンションも狭小住宅も、京都市内ではまだまだ高嶺の花なのです。

(駅近の不動産=高価の法則に当てはまらないところが、京都の七不思議のひとつ)。

前述の円○寺のある岩倉周辺は「あそこならまだ買える」秘境の地でした。
今では地下鉄も延伸し、「家を建てるなというほうが無理」という状況です。

(それで一条山の違法開発等も起こってしまったわけですが・・・)

借景の保全の難しさは、ちょっと考えればわかります。

たとえば比叡山や東山、北山といったかなり大きなものを借景にする上に、
人間の目には180度近い範囲まで見えてしまうのですよね。

皆のそれぞれの視野の中に何も邪魔なものを作るなと言われたら、
京都市中、どこにも何も作れなくなってしまいます!

アナタなら、「景観」という喰えない(?)ものに、どのくらいまでの価値を認めますか?
つまり、どの程度までの税金等の負担を許容できるか、ということです。

また、町の(他人の)景観を守るために、自分の多少の不便を我慢できますか?