ピンチ!専門外の講演依頼

発表や講義のたびに、「今度こそ余裕を持って準備するぞ!」と毎回自分に誓っていますが、どうしても、ギリギリまで放っておいて、直前あるいはその場でバタバタする癖が治りません。今学期は、急に履修人数制限をはずしたために20人→83人に膨れ上がったクラスがひとつ、それに、2学期分のテーマを一学期間にまとめてカリキュラムを大変更したクラスがひとつあります。(「勝手に講義のタイトルを変えないで下さい」と教務課の担当者に叱られましたが…) いずれも、授業計画(シラバス)を大幅に改定しなければならないので、1からの作り直しです。いつも授業開始3分前までバタバタと教材を作ってますから、電話などしてこないでね。

しかしまだ講義なら、古い引き出しからネタを引っ張り出して、90分くらいはなんとか喋れます。ところが今度、今まで一度も学術的には喋ったことのないネタを引き受けてしまったのです・・・音楽。「創造性とは何か」というテーマの研究会で「何か喋りに来てくれない?」と知り合いの先生に頼まれ、「たとえば…」と即興演奏の話をしたら「面白い!それで行こう!」なんて乗せられてしまいました。

ところが期日が迫ってきて来るにつけ、焦りばかりが募って神経症状態になってきました。何を話したらよいのか、どこから始めてどう組み立てたらよいのか、頭の中で全くまとまらないのです。これがコンサートのMCならいくらでも与太話ができますが、いざ真面目に語ろうとすると、様々な理論や、簡単なコードの構成すらアバウトにしか理解していない自分に気づき、愕然としました。(短大の音楽科を首席で卒業したんじゃなかったのかい、おい?)

さらに悪いことに、研究会の主催者が例のノーベル物理学賞関係で有名な研究所だものですから、聴衆は世界中から集まる、大学教授クラスの理論科学者さん達なわけです。「そんなん科学ちゃうやん…」とシラけられる、あるいは「キョトン?」とされるだけならまだしも、最悪の場合、「その理論は実はこうではありませんか?」などと突っ込まれでもしたら…(悲鳴)

少しは「学術的」に見せようと悪あがきしてバロックの即興演奏楽譜など引っ張り出してきましたが、その読み方すらマトモに覚えていない自分にさらに打ちのめされ・・・最後のKOパンチが、自宅のハードディスクのご逝去。プレゼンに使えそうな楽譜や音源のファイル達が、すべて消えてしまいました。ついに観念し、主催者のM先生に電話しました。「予定を変更して環境デザインの話をしてもいいですか?」環境デザイン関係ならデータのバックアップも取ってあるし、スライドショーも沢山用意があります。いつもの日本建築・庭園ネタなら外人ウケ間違いなし、1時間もあればラクラク準備できる・・・すると、「モチロン!何でもお得意の話題でいいよ~。気楽に行こうよ、ね!」と明るいM先生。ああ助かった。M先生がお心の広い方で本当に良かったなあ…

ところが翌日、そのM先生から「参加者の皆様へ(最終版)」と題したプログラムが届きました。なんとそこには、『Improvisation - A Few Notes in Music(音楽における即興)』と、私が最初に思いつきで口走った演題がしっかり刷り込まれているではありませんか!

ええぇぇぇ、M先生、お優しいお顔して、そんなぁぁぁぁ~(涙)

おまけに私と同じセッションは、音楽に関係のありそうな内容の演題ばかりで組まれています。リード楽器における気流の3Dモデリング理論、波動と純正律平均律を用いた科学教育・・・そ、そういう話を期待されているのでしたか!どう考えても、ここでいきなり日本庭園の話は場違い。といって、今から4日間で、高校1年の物理の教科書から勉強し直しても間に合うわけがない。

物理に関係づけることは諦めるとしても、何か少しでも理論的な話をしなければならなそうです。しかし今回の聴衆はその道の大学教授。生半可な付け焼刃が通用する相手ではありません。そもそも、聴衆の皆さんの知能レベルと自分のそれが、あまりにもかけ離れすぎています。「なぜ、今までその点に気づかなかったの?」と言われてしまいそうですが・・・^^; 海外からはるばる来られる先生方にjudgeされるワンチャンスです。それなのに、もうあと4日しかないのに、プレゼンはおろかストーリーの粗筋すら出来ていないのです!自分の所属大学名・部局名つきでプログラムにも紹介されているので、私が変なしくじりをしたら、うちの大学のランキング順位が下がってしまうかもしれません!?

こうなったらもう逃げ出す言い訳を考えるしかありません。
親戚の急死? 
子供の病気? 
体調不良で声が出ない?
代役を立てる?

おいおい、これでは学生と一緒だな・・・

(つづく)