交通裁判 in USA

日本ではどんな理不尽な捕まり方をしても、異議を申し立ててなんとかなる望みは無いようですが、アメリカでは基本的に「Nothing to lose to ask.(聞くだけ損は無い)」です。

主人が子供のシートベルト不着用で捕まった時、これはカリフォルニアでは300ドルの罰金なのですが、裁判所で「知らない間に子供が勝手に外した」旨を説明したら、191ドルにまけてもらえました。バス専用レーンを走った捕まったらしい車の運転手が「私は以前にバスの運転手をしていたもので…」と言い訳をし、即座に無罪放免になっているのを裁判所で目撃したという友人もいます。基本的にこの程度のことなら事実関係の確認や証拠提出は求められず、自己申告でいいみたい。

「罪は認めますがお金は無いので罰金をまけてください」と言う同情買い作戦は通じないようです。それを実際に頼んでいたのは私の友人の奥さんで、たまたま同じ裁判室でそれを目撃したのは私の主人。そのくらい狭い世界で、かつ皆さん頻繁に交通裁判に出向いて言い訳をしているということなんです。二人同時に別の場所で捕まって一緒に裁判に来ている夫婦には、さすがに笑いましたけど・・・

一度サクラメント路面電車で、切符売場がわからず現金を握ったまま乗ってしまったことがあります。車掌に「切符はどこで買うのですか」と聞きに言ったら、無賃乗車の違反キップを手渡されました。「今、切符を買おうとしてたんですよ!」と持っていた1ドル札を振り回して見せましたが、ダメ。そのまま50ドルの罰金を支払うのはあまりにも悔しいので、裁判に出頭してみました。

そこには、「犬を登録せずに飼った」など、同じような軽い罪状の人が何十人も来ていましたが、何だか自分がとてもレベルの低い集団に入ってしまったようで、屈辱を感じたことを覚えています。とにかくあまりの大人数だったので、裁判官がいちいち相手をしていられないということで、裁判官の代理を務める弁護士に話をするようにとのことで、1人ずつ別室に通されました。

私の場合は本当に善意の過失だったので、普通にそれを説明すれば良かったのかもしれませんが、念には念を入れたくなり、また例によって「ガイジン」の演技を始めました。たどたどしい英語で一言ずつ、言葉を探すようにゆっくりと、「チケット、先に買う、読めない、ゴメンナサイ・・・」などと身振り手振りで必死に説明しました。その時は「J-2」という外国人研究員の配偶者ビザで滞在・就労していた頃だったのですが、自分自身がすでに在米5年で同州の泣く子も黙るトップ校の大学院卒であったことは、黙秘権。

弁護士は人の良さそうな青年で、私の目を真っ直ぐに見て、頷きながら根気よく話を聞いてくれました。(なんて悪い女なんだ~。でも嘘はついてないよ・・・)しまいに本当に気の毒そうな顔をして「奥さん、通訳を呼びましょうか?」と言ってくれた時にはさすがに良心が咎めましたが、結局、「二度同じ間違いをしない」という約束で無罪放免になりました。

スピード違反でハイウエイパトロールに捕まり、警官に「どこへ急いでいるんだ?」と聞かれたら、それは誘導尋問ですから、「急いでおりません」と答えるのが正解です。

一番言ってはならない最悪の答えは、「オマエの女房に会いにな」。これ、本当にアメリカの違反者向け交通安全講習で習ったことなんですよ・・・

その他、「See you in the court.(法廷で会おうぜ)」も禁句だそうです。このセリフは警官に対する侮辱にあたるため、頭に来て罪を重くされることもありうるのだとか。

「No contest.(罪は認めます。が、ちょっと聞いてください)」と情状酌量を求めるのはOKですが、無罪を主張して法廷で警官と争ったら、100%勝ち目はないのがアメリカの司法システムらしいです。だから検事と弁護士が事前に取引し、有罪を認めた上で罪の軽減を事前交渉するPre-bargainが多い。それでも「正義を信じて無罪を主張するぞ!」みたいな話は映画になっちゃうわけです。詳しくは、T.クルーズ、J.ニコルソン、D.ムーア主演の「A Few Good Men」をご覧ください。
法廷用語の勉強にももってこいの映画です。

デービス(あまりに平和なため警官が暇をもてあまし、交通違反の取り締まりに燃えている町)でスピード違反の容疑で捕まった時、警官の主張の数値的矛盾に気づいた理系研究者の主人は、

「自分がもし本当に警官の証言しているスピードでその距離を走っていたとしたら、
 警官は、決して自分には追いつけなかったはずである」

という命題を数式まで用いて証明し、プレゼンのためのフリップボードまで手作りして、(今ならパワーポイントだろうな・・・)、自信満々で裁判に臨んだのでした。しかしその完璧な論証に黙ってじ~っと耳を傾けていた裁判官は、聞き終わって一言。

「有罪。」

えぇぇぇぇ~っ!!! 主人は自分の耳を疑ったそうですが、私にはなんとなく理解できました。

その裁判官、きっと数学が苦手だったんです。