アイビーリーグの博士号は無料で取れます

なんだかいかがわしい学歴詐欺のキャッチコピーみたいに聞こえますが、本当なのです。

勤務先の迎賓室(元・総長室)というところに初めて足を踏み入れました。米国の某大学院からのご来賓のご一行との懇談会に駆り出されたのです。最近数代の大統領を連続して輩出している、アイビーリーグの名門中の名門です。本当は部局長が召集されていたのですが、都合がつかず、私が代理出席を命じられました。私みたいな下っ端が登場して先方様に対しては失礼極まりないことでしたが、私にとっては大収穫でした。

学生の留学アドバイスに即役立つ、素晴らしい最新情報を得たのです。内容は表題の通りです。もう自分の立場もわきまえず、あれやこれや質問しまくってしまいました。

ここ数年の最新情報らしいのですが、全米トップ20私立大学(いわゆる研究大学)では、分野に関わらず、博士課程の学生は必ず授業料全学免除+年間25,000ドル以上の奨学金がつくそうです。州立大学ですと奨学金と引き換えにTAや助手などの仕事をしなければならないことになっていますが、私立大学ではそのような縛りもなく、純粋に勉学に専念して成果を上げてほしいということらしいです。私立大学の授業料は年間30,000~40,000ドル、プラス奨学金(生活費)も支給するということですから、院生一人あたり、今の円高レートでも年間600~700万円x年数分を用意してご招待してくれるわけです。

これなら優秀な人材が、仕事を休んで、あるいは辞めてでも研究しに行こうかと思うではありませんか!(アメリカの大学院、特に人文系・社会科学系・実学系では、社会人入学が断然多いのです)

最近は日本でも東大その他がこれに習うような制度を設けて優秀な学生の獲得に動き始めています。本学は、どうしても東大の真似だけはしたくないのか、独自の道(?)を探っているようです。しかしこれら日本のトップ校も、教育・研究環境の点において米国の一流大学には遠く及ばないことは、今さら隠してもしかたない多数のご意見。

昔からお金に糸目をつけず優秀な人材を確保しようとする傾向があった私立大学に対して、財政難の州立大学では、「自分で金持ってくるならおいで」という傾向があからさまです。ですから、「少しでも安いほうが・・・」などという理由で州立大学を選んでしまうとむしろ損をします。奨学金授与における外国人差別は州立大では納税者の意見により正当化されますが、私立大では絶対ありえないそうです。

さらに十数年前は、留学生は願書とともに十分な就学資金があるという証明書を提出しなければならず、「こんなに金持っとるなら奨学金はいらんな」と判断されてしまうという制度的ジレンマがありました。それは、借り集めたお金であっても、返済義務のある奨学金であっても、関係ありませんでした。苦労して小銭をかき集めた者に限って援助を受けられなるというパラドックスがあったのです。

超優秀な方なら「大学の奨学金がつく場合のみ入学します」と自信満々に応募すればよいのですが、それだと合格の可能性はグンと低くなり、何らかの都合で入学時期が限られている場合に困りました。たとえば日本の政府や民間団体の奨学金の来年度からの受給がすでに決まっている場合や、会社の休職期間がすでに動かせない場合などであり、そうでなくても、卒業後の就職その他を考えるとあまり時間に余裕がない日本社会でした。

ところが現在では(少なくとも私立大学においては)この資金証明書の提出は廃止されたそうで、応募者の財政状況はいっさい問わず、成績+将来性だけで、入学を決めるそうです。入学者全員に100%生活に困らない奨学金をつけるのだから、財政証明の必要がないわけです。資金ゼロでも、優秀な方なら「受かった時に行ったらええやん」と大きく構えることができます。また逆に、大金持ちのアラブの王族(?)みたいな応募者に潤沢な奨学金をつけてしまい、本人が「自分には必要ないから」と言って返還してくるようなこともたまにあるそうです。なんともゴージャスな話です。