独居老人に地デジ

私の父はいわゆる独居老人だ。東京の下町の仕事場で一人で暮らしている。

月5万円の国民年金は借地の地代に全部消えるので、頼まれ仕事やアルバイトをして食いつないでいる。年齢(70代)のわりに健康なのは幸いだが、ヒジョ~に質素な暮らしぶりだ。メールくらいできると安心なのだが、インターネットはおろか、ファックスも、留守電すらもない。今では骨董的価値があるとすら言われているダイヤル式の黒電話を使っている。

ここ数年、テレビが映らなくて困っていた。特にNHKにゴーストが出て、相撲などは3対3で取っているように見える。白と黒が写ると画像が滅茶苦茶に乱れ、囲碁番組を見るのを楽しみにしていたのに気の毒だった。

最近ではもう、少しでも何らかの画像が映ればラッキー。チャンネルを選ぶどころか、たまたま映ったものを黙って見る、という状態が続いていた。あんな悲惨なテレビを使っている家は、アメリカのゲットーか私の実家くらいでしか見たことがない。貧乏移民の家で画面の半分しか映らないテレビを見て仰天したことがあるが、あれと結構いい勝負。

でもアンテナの不具合かもしれないという疑いもあり、なかなかテレビ買い替えに踏み切れなかった。どこかから拾ってきて取り付けた、パーツが欠損しているアンテナだから。家が古いので「屋根に人を上げて踏み抜かれでもしたら大変」と、アンテナ取替えは嫌がっていた。ではケーブル契約となると、一番安いのでも月々3900円。年間5万円近い出費になってしまう。電器屋さんに相談に行くと「あの辺はビルの谷間だからケーブルでないと映りません」と脅された。ケーブルは初期工事に2万円、解約しても2万円ほど取られる・・・なかなか決断できない。

ところが最近ECOさんのブログで「地デジのアンテナは屋根につけなくても良い」ことを知り、さらに調べてみると、地デジはUHFのアンテナでも映るのだということがわかった。確か、あの家のテレビはUHFは比較的マシに映っていたはずだ。それに東京タワー方角の墓地の裏なので、見通しがいい。(資産価値は限りなく低いけど~^^; )

早速父に「アンテナ変えずにテレビ映るかもしれないから、ケーブルはちょっと待って!」と電話した。そして先日、親子3人で東京へ行ったおり、父を伴って有楽町駅前のビッ○カメラへ出かけた。延長保証の条件が良いし、秋葉原まで行くと店が多すぎて疲れるだろうから、とここを選んだ。父は今まであんなボロテレビを見てたくせに「今風の薄っぺらいテレビがほしい」などと生意気を言うので、20インチ液晶テレビのコーナーへ直行。各種メーカーが競って製品を出しており、私は目が眩んだ。

父は画面を見比べ、シャ○プのAQUOSの色の出方が一番気に入ったと言う。仕事柄、色の好みのハッキリした人だ。でも値札には118000円と書いてあり、10万円しか持ってきていない父の予算を大きく超えていた。もちろん、クレジットカードの類を持っているような人ではない。老父にテレビくらいプレゼントすべきだったのかもしれないが、あくまでも自分で買うことを主張していた。

「ブランド物の新製品だから高いのかな。やっぱり秋葉原まで行ってみる?」などと諦めかけたが、イチかバチか店員さんに聞いてみると、「84800円まで値引きします」と言う。

ホンマでっか~!!!

さらにポイントが20%ついて、実質7万円以下だ。5%払えば5年保証(目減りなし)もつけられる。「私も買いたい~!」と思いつつ(我家の5年落ち13型液晶TVにも黒い縦スジが入っております)、「これなら手を打ってもいいんじゃない?」と合意。店員さんが今時珍しくテレビの技術的なことに詳しい人で、いろいろ教えてくれたのも気に入った。(「研修生」って腕章つけてたけど、元メーカーの技術者だったりして・・・)

ビッ○カメラでは、1050円で配達、さらに1050円でセットアップもしてくれるのだが、旦那が「僕が運びますから、今日持って帰ってすぐにつけてみましょう」と、珍しく強く主張した。結局、10kgの大箱を抱えて電車で帰り、マニュアルを見ながら2人で設定してみた。(←得意ではない)すると小一時間の格闘の末、キレ~イに映った! お相撲さんもちゃんと1対1で!

拍手~!!!

アンテナ取り替える必要もケーブル契約する必要もなかった。持ち帰りしてセットアップしてみて本当に良かった。ありがとう、パパ!大阪に帰り着いてから父に電話をすると、6畳一間のはずなのにしばらく電話に出ない。「ちょっとテレビ見てたから忙しくて」だって・・・楽しんでくれてるなら結構なことです。「○○さん(←旦那の名前)によくお礼言っといて」と何度も言ってた。

しかし、まさかあの「黒電話」のうちの父に「地デジ」で先を越されるとは思いもしませんでした。