初心者がお茶会を乗り切る心得集

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和ブーム以来、茶室の話題が出ることが多くなりました。愚息にも、学校の選択授業で「茶道」を習っておけ、と口を酸っぱくして言うのですが、聞いてくれません。おそらく女の子ばかりのクラスなのでしょう。

でも本来の茶道は男の世界のものでした。露地の飛び石の歩幅を見れば明らかです。

学校のクラブやサークルでで習うのはお勧めです。キッチリ練習できますし、お金の心配も要らない。一度社会に出ると、お免状を一枚いただくごとに、季節のお呼ばれごとに、万単位の謝礼が必要です。いくらケチな私でも「お免状は要りません」とはなかなか言いにくいのがこの世界です。

お茶室などの特別見学をお願いする場合も、学生と一般、さらに茶道の免状持ちでは謝礼の相場が一桁ずつ以上違ってくるのです。

気楽にお茶会を体験できるのは、京都などで、あちこちのお寺で毎月開催される「月釜」でしょう。その日に行って順番待ちをしなければなりませんが、一般客や観光客でもたいがい入れます。普段は非公開のお茶室が見られるというオマケもつきます。お寺はちょっと荷が重いという方には、吉田山の茶室つきカフェ、哲学の道近くの和菓子店、宇治川のほとりには観光客向けの公共の茶室でもお茶会が経験できます。こういう茶会は大きな広間で大勢で行われるので、慣れた方の真似をしておれば大丈夫です。

茶会で一番大切な心得は、茶席に入る順番を決めるとき、一番、二番めと最後を避けることです。たとえどんなに勧められても、初心者はここだけは断固として遠慮しなければなりません。うっかり和服など着ていくと「心得のある人」と間違われて一番を勧められかねません。中年~熟年の男性も狙われがちなので、「初心者なので」とハッキリ断りましょう。

一度断りきれずに一番(主客席)に座ってしまったことがありますが、とんだ大恥をかきました。亭主(お茶を点てる人)が首席奏者だとすれば、主客(一番に座る人)は、指揮者です。茶席の会話と流れのすべてを仕切る責任があるので、相当に教養のある人格者でないとできません。

気軽に会話を交わしてよい雰囲気の場合以外は、主客以外は口を開かないのが無難。もし会話がはずんでいても、司会は主客に任せ、決してでしゃばらないことです。

作法については、流派によっていろいろ異なるので、細かい点は気にしなくてよいと思います。茶会によって席主の流派も異なるので、全部カバーできるわけがない。

基本は、物と人に対する思いやりです。

まず部屋に入るときは、敷居や畳の縁を決して踏まないこと。建築をいたわるためです。また人様の大事な畳を汚さないよう、真っ白で清潔な足袋または靴下を着用しましょう。

そして、お道具が骨董美術品ですので、それをキズつける恐れのある行為は厳禁です。そのため、お茶会にはアクセサリーや腕時計は外して出席しますし、女性も口紅や香水は控えます。

特に茶碗は、「人様の大事な宝物をお借りしている」という感謝と遠慮の気持ちをもって取り扱います。茶碗を回し、正面を避けて口をつけるのもこのためです。茶碗を置く時は正面を相手に向けます。ビールのラベルを見せながら注ぐのと同じ心です。

回す角度や方角は、流派によって全くことなるので覚えても無駄ですが、自分が口をつけた跡はさりげなく指で拭き、その指は持参したお懐紙(かいし)で拭いておきます。お懐紙とは、お菓子の取り皿やお箸ふき、手拭として使う万能の和紙。茶道具店の他、和菓子店などでも購入でき、一束100円~数百円です。お懐紙ばさみ、または布製の薄いポーチに入れて持参します。

この「茶席と道具をいたわる心」だけ忘れずにいれば、冷や汗をかく大失敗は無いと思います。

茶室の全体や調度品、茶道具に注意を向け、しみじみ鑑賞するのも礼儀です。すべてが、その日の茶席のテーマによって念入りにコーディネートされているからです。そして主客は、そのテーマについて洗練された会話をすることになっています。

掛け軸や花、釜などの道具のすべての前で正座をしてお辞儀をして回る場合もありますが、これは先に入る人々の真似をしながらついて行けばよいでしょう。

お茶をいただいた後にお道具の拝見(順番に回し、手にとって鑑賞)することもありますが、初心者は遠くから熱心に見るだけにとどめ、手で触れるのは遠慮したほうが無難かと思います。

私は一度、茶碗を拝見する時に持ち上げてしまい、大勢の前でこっぴどく叱られました。(失敗の多い人・・・)

日常の作法と異なり戸惑うかもしれないのは、立って移動するとき、座っている他の客の前を歩いても良いということ。後ろを歩くと大事な壁をこすったりするので、むしろ席主をヒヤヒヤさせます。

また、取り皿(懐紙)やフォーク(黒文字)は自分で持参すること。そしてゴミはすべて自分の懐に入れて持ち帰ること。

黒文字でお菓子がうまく切れないと冷汗が出ますが、手でつまんでパクッと食べても構わないと思います。グズグズするほうがよくない。手がよごれたらお懐紙でさりげなくふきます。

複数の客がいる場合は順番にお茶が出されるので、「お先に」「どうぞ」と挨拶してからいただきます。「周りの人々に気を配る」というのが何よりも大事な気がします。これ、緊張すると忘れがち。

亭主や半東さんにどう挨拶すべきか、といったことは、周囲の人の真似をしましょう。半東(はんとう)さんとは、お菓子や茶を運んだり能書きを述べたりする、司会者兼アシスタント。客2~3名以下、部屋4畳半以下の小さな茶席では、いない場合もあります。

・・・と、偉そうに言ってますが、実は私も初心者レベル。表と裏のお稽古を1年ちょっとずつかじっただけで、御免状をいただく前に辞めてしまいました。

ただ京都のガイドをしていたので、失敗の場数だけは踏んでいます。いつまでも「初心者」の顔をしておくことが、一番気楽にお茶会を楽しめるコツかもしれませんね。

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