困窮で大学進学を諦める前に

大阪府に住む18歳の少年が、家庭の経済的事情から進学を諦めさせられた腹いせに、何の関係もない見知らぬ男性を電車のホームから突き落として殺害しました。被害者の岡山県庁職員の男性(38歳)は、小さなお子さんもいる方だったそうです。少年は「誰でもいいから殺したい」と思ったそうです。この少年は高校のクラスで1、2番の成績で、京都大学への進学を希望していたそうです。で、それを諦めさせられたのも動機のひとつ、だとか。

わからない・・・

京都大学では、経済的に困窮している学生には授業料免除の制度があります。緊急(被災、実家の倒産、親の失業、農家の不作・・・等)の場合には、入学金免除も可能なはずです。少年の居住地からなら自宅通学もできますし、家賃月400円の激安寮に入れば交通費もかかりません。授業料免除+アルバイト+奨学金(給付・貸与)で、仕送り無しで卒業してる人はいくらでもいます。もうちょい頑張って東大に合格すれば、年収400万円以下の家庭の子は授業料タダらしいですし、他の国立大学法人にも授業料免除制度があります。(ただし一度でも滞納すると応募できなくなります)

私立大学でも、奨学金や特待生制度がどんどん充実してきています。たとえば少年の地元から近い大阪産業大学でも、センター試験入試で上位の成績をとれば学費免除です。そういった制度は、最近はどこの私立大学にも大抵あります。もし本気で大学へ行きたかったのなら、今の時代、費用なんてどうにでもなることなのです。進路指導の先生に「無理」と言われた難関校に合格している人だって、星の数ほどいます。諦めなくても、ましてや罪も無い人を線路に突き落とさなくても良かったんですよ!

先日、ある学生さんがアメリカ大学院留学の資料集めに来ました。昨今の円高と原料高で実家の工場の経営が思わしくなく、親に就職してくれと頼まれたそうなのですが、彼は米国のトップ大学院なら授業料免除+潤沢な奨学金つきで留学できると聞きつけてやってきたのです。学部の成績(GPA)や大学院共通テスト(GRE)の点数をできるだけ良くするようアドバイスし、留学のための試験対策本をあれこれ貸してあげました。天は自ら助くる者を助く、と思います。

20~30年前は奨学金も今ほど無く、私立大学の自力卒業はなかなか厳しい状況がありました。もっと前の世代には、働きながら夜学を卒業した方も多かったみたいです。かつて困窮を理由に家族から大学進学を禁止された友人が、自力で東京の有名私大に進学しましたが、アルバイトかけもちの過労とストレスから神経症を患ってしまい、その後20年以上、入退院生活です。その子の親御さんは、自分の娘が学業優秀で頑張り屋であるという稀な幸運を生かすこと無く、ほんの数十万円の学費をケチったばかりに、一生、病気の娘の面倒を見ることになったのです。「学費が払えない」わりには新築の家を購入しているあたりが、私にはとても理解できませんでしたが・・・

子供の教育費を払うのが惜しくてしょうがない親はいつの時代にもいるものですが、最近はさらに、「悪いクセ」のように滞納を平気でする親も増えてきているようです。(この事件の少年の親は正真正銘に困窮していたみたいなので、少し話が横道にそれますが・・・)

授業料が払えなくて高校を中退したり、修学旅行に行けなかったりする子が増えているそうです。親が給食費を払っていないから遠慮して食べない、という気の毒な子もいるとか。修学旅行はともかく、月々1万円程度の公立高校の学費が払えないという状況はちょっと理解しにくい。それほどの困窮家庭なら、公立・私立に関わらず、都道府県が何らかの救済措置を出していますから。

しかし今年、京都大学でも、4期授業料滞納で除籍になりかかった学生がいました。しかし本人はその状況を全く知らず、成績優秀で課程を修了し、大学院にまで合格していたのに、です。担当者が親御さんから「子供には滞納の事実を告げないで欲しい」と口止めされていたらしいのですが、私は「このままこの学生の人生を台無しにしてもよいのですか!?」と大声で主張しました。幸い、再度の督促により授業料は全額振り込まれ、その学生は無事に卒業できたようです。何度も言いますが、本当に困窮しているなら授業料免除に申し込めば良かったのです。

一方、実家が負債を抱え、債権者から「高校を辞めろ」と攻め立てられた友人がいますが、親御さんは何をおいても彼女に高校と専門学校だけは卒業させました。その親御さんの英断のおかげで、彼女はその後もずっとプロフェッショナルとして生きています。あの時もし慌てて高校を中退していたら、いったいどんな仕事につけていたことか・・・

どんなに大変な状況でも、ちゃんと情報を集めて、長い目で冷静に進路を決めてください。困窮すなわち就職、ましてや「死」などと短絡的に考えないほうがいいです。