命名システム・海外編

悠仁ちゃんと偶然に同じお名前だった方々、突然のテレビ出演おめでとうございます(笑)。

20年程前、従兄が子供に「明仁(あきひと)←現天皇と同名」という名前をつけたとき、
祖母が「なんと畏れ多い・・・」とひっくり返っていましたが、今は気楽にあやかり名前がつけられそう。

今日のテーマは、姓名に関する雑感・海外編です。

アメリカで様々な書類に氏名を記入するとき、日本人はミドルネームが空欄になります。
このミドルネーム、あるといろいろ便利なんです。

私が勤めていた設計事務所では、自分の図面にイニシャル3文字(例:JFKなど)を署名するのですが、
私は2文字(AS)しかないので、ふざけて「ASS」(ケツ)とか書いてみたら怒られました。

(本当にそういうイニシャルの人もいると思うけどなー)

研究者が論文を発表するときはイニシャル+苗字になりますが、例えば田中耕一さんならK.Tanaka、
こんな名前で検索をかけたら何万件もヒットして、どれが本人の論文なのかさっぱりわかりません。

私の主人も同様の悩みを抱えており、勝手に「A」というミドルイニシャルをつけましたが、
どうせならQ,Xなど日本人姓と並ぶことの少ない文字にしとけばよかったと後悔しています。

(研究者は発表した論文の数が「業績」なので、一度論文に使った名前はそうそう変えられません。
結婚しても旧姓で通す女性研究者が多いのはそのためと思われます。)

欧米では息子に父親と同じ名前をつけることも多いので(なんと紛らわしいこと!)、
ジョージ・ブッシュとジョージ・W・ブッシュのように、ミドルネームで区別をつける場合もあります。

トミー・リー・ジョーンズもミドルネームがなかったらトム・ジョーンズと同姓同名になってしまいます。
こちらは親子ではないと思いますが・・・。

自分のファーストネームが気に入らない場合にミドルネームを名乗るという補助的使い道もあります。
私の友人でも、ミドルネームで名乗っている人が沢山いました。

中にはファーストネームとミドルネームを使い分けて遊び歩くけしからん悪男・悪女もおりました。

アメリカ人やイギリス人のミドルネームは、ファーストネーム同様、自由に命名するようです。
尊敬する大統領の名前、祖父母の名前、2番めにつけたかった名前・・・なんなりと。

ジョン・レノンのミドルネーム「ウィンストン」はウィンストン・チャーチル首相からもらったそうです。
親の心子知らず、とはこのことでしょうか・・・お祖母ちゃんがつけたらしいですけど。

ロシア人のミドルネームは父親の名を一定の法則に従って語尾変化させて作ると決まっていますので、
ミハイル・セルゲイヴィッチ・ゴルバチョフのお父上の名前は「セルゲイ」であると一目でわかります。

スペイン人の名前は、ミドルネームというか、父方姓、母方姓の両方の姓自体が累積していきます。
例えば佐藤(男)と鈴木(女)が結婚して生まれた子ども太郎さんは「佐藤鈴木・太郎」となります。

そして佐藤鈴木・太郎さんが田中斉藤・花子さんと結婚して生まれた子どもは佐藤鈴木田中斉藤・一郎、
という具合にネズミ算式に名前が長くなっていきます。

ルームメートだったスペイン人の、氏名が2行になっているパスポートを見たことがあります。
しかしあまり名前が長いと大変なので、祖父母の代あたりまでで苗字を新陳代謝させていくようです。

中国系や韓国系は結婚しても夫婦別姓ですが、子どもは父親の姓を受け継いでいますね。
家族でお母さんだけ姓が違うなんて不思議ですが、姓名の両方にアイデンティティがあるのでしょう。

しかし結局どんなシステムでも母方の姓はいずれ消えていくようです。
男の子が望まれないと家が途絶えると思われ、男子が待望される背景の一端も担っていそうです。

アメリカでは、公平に両方の姓をハイフンでつないで新しい姓を作っている人も沢山います。
佐藤さんと鈴木さんが結婚して「佐藤-鈴木」という新しい苗字を作ってしまうわけです。

どちらの姓を名乗るか決めかねての苦肉の策かもしれませんが、
このやり方をあまり濫用すると、佐藤-鈴木-田中-斉藤・・・といった長い苗字ができてしまいます。

(横浜に「伊勢佐木長者町」という駅名がありますが、大阪の地下鉄谷町線の駅名も、
四天王寺夕陽丘」を始め、おそらくこの「決めかねて」方式でつけられた長い名前オンパレードです。
譲る、ということを知らない人達ですね~)。

「自由の国アメリカ」では、愛称やニックネームも正式名として使用できるようです。

例えば「トミー」はもともと「トーマス」の愛称だったかもしれませんが、統一さえしておけば、
愛称で学生名簿登録したり、運転免許やクレジットカードを作ったりしても問題ないのです。

また、もし本名が「ロバート」ならボブ、ボビー、ロビー・・・etc.といろいろな愛称から選べます。
本名の面影もないような変化をしている愛称もありますし、愛称が何十種類もできる名前もあります。

日本人の名前は好きな漢字の組み合わせ等で相当自由に決められるようになってきましたが、
キリスト教圏の名前はもともと聖人や天使の名前など、ほんの数種類しかありません。

だからいろいろ変化させて「個」のアイデンティティを確立しようとしているのでしょうか・・・?

アングロ系の「マイケル」もフランス人の「ミシェル」も元を正せば天使の「ミカエル」です。
アメリカは多民族国なので、これらが言語別ヴァリエーションがすべて使用可能で、選択肢は無限大です。

より保守的でしかも単民族のイタリアでは、人名は数種類しかなく、そこいらじゅう同名の嵐でした。
同じ事務所にアントニオが3人いたり、マリオとマリア(同名の男女)が付き合っていたり・・・。

フランス人もナポレオン法典の名残で使える名前の選択肢が少ないので、ジャン-ポールといった具合に
二つの名前をハイフンで繋げ、名前のヴァリエーションを広げようと涙ぐましい工夫をしておられます。

「自由の国」アメリカでは性別にも厳しい制約はなく、ジョーやマイケルという女性にも会いました。
自分の人種にはおおよそ似つかわしくない(顔に合わない)名前をつける人も多くなりました。

いかにもメキシコ系の浅黒い顔をした小柄な男の子が「ヘンリー」や「エドワード」だったり、
どう見ても中国系の女の子が「ジョセフィーヌ」や「ハイジ」だったりしても、誰も気にしません。

ラテン系やアジア系などの人々は、差別を避けるために子供に白人っぽい名をつけるのかもしれません。
アフリカ系黒人は、60年代の解放運動以降、アフリカ名やイスラム名の人が増えました。

日系人も、敵国移民として強制収容された苦い思い出からか、日本名をつける人は非常に少ないですが、
4世以降の若い世代では静かな和名ブームもあります。ただ、先祖の文化とは縁が切れているようです。

娘を「ミドリ」と名づけた日系人は、それが「緑」という色の名前だということを知りませんでした。
MIDORIというお酒の名前から取ったのだそうです。

娘に酒の名前をつけるか・・・?と思いますが、アメリカ人に親しみやすい名前ではあるようです。